……そう、なのだ。

先月、終業式の日に校長先生から知らされた椎名先生の退職。

詳しいことは話されず、一身上の都合によりと説明されただけ。

その頃には落ち着いていた私と椎名先生の噂がまたも再浮上し、辞めさせられたんだと陰口を言われたりもした。

ひと月以上経ち、それもまた落ち着いてきてはいるけれど……


このまま、もう会えないのかと思うと悲しみに胸が締め付けらる。


迷惑になるかもと椎名先生の家に行くことはしなかったけど、一度訪ねてみようかな……

退職したのなら、問題……ない、よね?

でも、訪ねること自体が先生にとって迷惑にならないか。

そんな風にぐるぐると悩みながら、校門を出た私に……


「やあ、遥ちゃん」


少し懐かしい声がかけられる。

その人は、以前ここで声をかけた時とは違う、寂しそうな笑みを浮かべていて。


「葛城さん!」


驚く私に、久しぶり、と挨拶をしてから告げる。


「要が、君を待ってるよ」


先生が、私を待っている。

それは、先生に会えることを予想させる嬉しい言葉なのに。


葛城さんの弱々しい微笑みが


私を不安にさせた。