そんなこと考えもしなかった。

だって……


「違う、先生はそんな人じゃない」


椎名先生はそっけない素振りをすることはあっても、生徒をないがしろにするような人じゃないから。

そんな人なら、私を匿ったりしない。


「お願いだから、悠馬まで先生のことを悪く言わないで」


雨音にかき消されそうな声で懇願すると、悠馬は「ごめん」と呟いて。


「でも……俺は、お前に1人で辛い思いをさせる椎名がむかつく」


優しい本音を零した。


ねえ、先生。

私、恋って温かいものなんだと思ってたけど、違うんだね。

恋は、こんなにも苦しくて切なくて、辛いものでもあるんだ。


だけど、信じたい。

苦しい想いの先に、幸せがあるんだって。


また先生に会えるのだと。


あの約束が果たされる日が必ず来るのだと。


信じ、させて。