「最悪……」


天気予報を見忘れた私も悪いけど、朝から雨の気配を微塵も感じさせなかった青空も悪い。

傘を用意していない私は心の内で愚痴を零し、仕方なく生徒玄関の軒下で小降りになるのを待つことにした。

ほとんどの生徒は傘を持っているようで、ポン、と開いては雨で冷えた道に踏み出して行く。

色とりどりに咲き誇る傘を眺め続け、次第にその数も減って。

人の気配がなくなると、私は降り止まない雨空を見上げた。


先生、ちゃんとご飯食べてるかな。

風邪ひいてないかな。

喉が弱いようなこと言ってたし、大丈夫かな。


……会いたい、な。


空に投げていた視線を濡れた地面に落とし、焦がれる気持ちに唇を引き結んだ時だった。


「遥」


悠馬の声が聞こえて、私はそちらに顔を向ける。

肩に鞄を掛け、ユルユルのネクタイを締めた悠馬の手には紺色の傘。


「お前傘は?」

「忘れちゃって」


答えると、悠馬は傘をさし「入ってく?」と私の横に立った。

ありがたい申し出に、私はお礼を言って傘に入れてもらう。

病院に行くし、途中のコンビニで傘を買うからそこまで入れてとお願いしながら。