私は、その横にしゃがみ込み、同じように地平線を眺める。

そして、ふと浮かんだ疑問を口にした。


「先生が母校の教師になったのは、七瀬さんを忘れない為?」


もし、思い出すのが苦しいなら、他の学校に勤めても良かったんじゃないか。

なのに、母校で働いてるのにはそれなりの理由があるのではと思ったんだけど……


「偶然だ」


先生は頭を振った。

そして、海に視線を向けたまま続ける。


「でも、その偶然は必然で、七瀬が忘れるなと言ってるように思えていたんだ」

「……過去形?」


思ってる、ではなく、思えていたという言葉に、僅かな希望を感じ確認すれば。


「……そうだな。今は、そこまで暗く考えてはいない」


先生はしゃがみ込む私を見て小さく頷き、また視線を海へと移す。

それから、自嘲気味に薄く笑みを浮かべて。


「本当は、わかってるんだ。七瀬は俺を苦しめてなんかいない。ただ、俺が俺を許せないんだって」


苦しい胸の内を告白した。