先生がそう言うなら大丈夫なんだろう。

でも、漠然とした不安が拭えないのは何故なのか。

先生のことが好きだから、その想いに比例するように変に心配になってしまうのかもしれない。

例え、持病があるとしても、本人が何も話さないのなら無理には聞けないし、私は洗い物を終えるとソファーに腰を下ろした。

なんとなく点けられている液晶テレビには、旅行特集が流れている。

京都の神社仏閣といった国内のものから、世界遺産を巡る海外ツアーまで幅広く紹介されていく中、タイのピピ・レイ島の海が映った時には、その透明度とターコイズブルーに目を奪われた。


「凄い綺麗! ね、先生、ここ行きたくないですか?」


何気なく出た質問だった。

でも、言い終えてからハッとする。

先生は、海が苦手なのだと思い出したから。


「あ……えっと、行きたくはない、よね」


ごめんなさい。

思わず謝ると、椎名先生は首を振って「謝らなくていい」と言った。

そして、続けて……


「確かに、綺麗だな……」


そう零す。

発した声に偽りの色はなく、テレビの中の海を眺める瞳には、恐れはみられない。

その椎名先生の様子に、私は思う。

先生はきっと、海じゃなくて過去と向き合うのが怖いのだと。