椎名先生と私は、教師と生徒の関係。

そんなのわかりきってる。

好きだけど、ちゃんとわきまえるところはわきまえないといけないのもわかってる。

だけど……

今、ほんの少しだけでいいから、触れてみたい。

先生と生徒のしがらみを、今この時だけで……


解かせて。


息を潜め、誰にともなく心の中で許可を願いながら私は、眠る先生の顔近く、シーツに横たわっている右手に、自分の右手を……密やかに重ねた。

感じる体温に、胸が高鳴ると同時に切なさが広がる。


「せん、せ……」


空気だけで発した声は、もちろん届かない。

先生はぐっすり眠り、夢の世界に旅立っている。


──はずなのだけど。


キュ、と。

先生の手が、私の手を握り繋がれた。