先生の住むマンションは線路が近くにあるようで、換気の為にと開けた窓から電車の走る音が時折聞こえてくる。

タタン、タタン。

タタン、タタン。

その音を耳にしながら私は、リビングのソファーで膝を抱えるよう座りスマホを弄っていた。

お邪魔してすぐよりは慣れたものの、やっぱり椎名先生の家に二人きりという状況は緊張する。

私はスマホをタップする手を止めて、ちらりと小さめのダイニングテーブルでノートパソコンと向かい合っている先生の横顔を見た。


……先生は、私から家出した理由を聞き出そうとはしないでくれている。

でも、今日はとりあえず先生の家にいろと言ってくれた。

必要であれば泊まってもかまわない、と。

これは私にとって、世界がひっくり返るほどの超展開。

椎名先生の口から泊まっていけだなんて台詞が聞ける日がくるとは、誰が予想できただろうか。

ちなみに、その椎名先生は今──


「そういえば、宮原」

「はい」

「最近、数学以外の成績が良くないらしいな」

「もしや担任情報ですか」

「その通りだ」


来週の小テストを製作しているらしく、完全に教師モードに入っている。

でも、その方がいつもの私でいられるからありがたい気もしていたり。