椎名先生は、濃いグレーの玄関扉に鍵を差し込み、扉を開けると私に上がるようにと促した。
「お、お邪魔しまーす……」
ショートブーツを脱ぎ、清潔感のある白い床の上を歩く。
途中、左右に2つほどドアがあり、一番奥の扉の先には同じように白い床が広がるリビングがあった。
先生はキッチンカウンターに置いてあるシルバーの小さなお皿に鍵を置くと、リビングの入り口に立つ私を見た。
「何か飲むだろう? 適当に座ってろ」
そう言って、先生はキッチンの中へと入っていく。
私は頷いて返事をすると、リビングの窓際に設置されている深い青色のソファーに腰を下ろした。
ソファーの前には丸いガラスのローテーブル。
その下には毛足の長いグレーのラグが轢かれている。
男の人の部屋なんて、悠馬のところ以外上がったことがない。
しかも相手は椎名先生。
嬉しくて、だけど緊張でソワソワしながら私は部屋の中を見渡した。
このリビングに他にあるのはテレビと観葉植物、それから、壁に掛かっているローマ数字の時計だけ。
シンプルで掃除も行き届いてる、大人の男の人の家は、先生から香る香水の匂いがほのかに漂う。
本当、あり得ない展開にドキドキしっぱなしだ。
だけど、そんな中でもずっと胸の内にくすぶっている不安。
私はそれを、冷蔵庫をから飲み物を取り出している先生にぶつけてみる。