「あの、私は適当にまん喫とか行くので大丈夫ですから」


先生に迷惑はかけられない。

とにかく気にしないでもらおうと努めて明るく振る舞った。


「じゃあ、また月曜日に──」


立ち去ろうと、別れの挨拶を口にした時だった。


「入れ」


先生はそう言うと、石が乱張りされたアプローチを歩み、メインエントランスがあるマンションの入り口へと向かう。


「え? でも、え?」


まさかそうくるとは予想していなかった私は軽くテンパって言葉にならない。

瞬きを繰り返し、動けず先生の背中を目で追っていると、先生は階段を数段昇った途中で足を止めこちらを振り返る。


「匿うかどうかは後で決めるから、とりあえず入れ」


言い終えると、先生は早くしろと続けて、入り口の自動ドア前に備え付けられているテンキーに部屋番号を入力した。

オートロックが解除されたのを見て、私は慌てて跡を追う。

歩く音が小気味良く響くエントランスホールは、ウッド調の壁で暖かみが感じられる作りだ。

エレベーターの横には大きな観葉植物が飾られていて、葉の緑が壁の色に良く映えている。

先生と2人きり、ドキドキしながらエレベーターに乗り込んで、特に会話もなく10階に到着。

先生の部屋は外廊下を歩いて突き当たりにあった。