先生は私の隣に立ち、どこがわからないのかと問いかける。

私は教科書を広げ、今一理解できていない箇所のページを開いて見せた。

ドアの前で悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいに、先生は私に対して普通で。

変に色々考えてこんがらがっていたのは私だけなんだと思うと、少しだけ胸が痛んだ。

私だけが、先生を好きで。

先生にとっては、私はただの生徒で──


「もう、いいのか?」


思考を遮った先生の言葉に私は瞬きを繰り返した。

数学の話だろうか?

先生の視線は教科書に向いたままだし、きっとそうだろう。

それならまだあるからと、私はページをめくろうとしながら「あとは次の」と手を動かした。

けれど「そうじゃない」と、先生が否定し……


「避けてるんだろ? 俺のことを」


責めるようでも、悲しむようでもなく、目線はいまだ教科書のまま、抑揚のない静かな声で言った。


「や、えっと……」


やっぱり、先生は気付いてた。

葛城さんの前で態度に出してたみたいだし、そうかなとは思ってたけど……

多分、嫌な気持ちにさせてたよね。