ひらりと先生の手からカードが滑り落ちる。

咳はすぐには止まらなくて。


「ぐっ、ごほっげほっ! はぁ……は……ごほっ!」


呼吸が難しいのか、苦しそうに息継ぎをしながら咳をしている。

その様子が普通じゃない気がした私は、さっきまでの迷いもそっちのけで勢い良くドアを開け放った。


「先生、大丈夫!?」


咳き込みで返事はできないようだけど、先生は来るなと言うように私に向かって手を突き出した。

それに従い、私は先生に届く数歩手前で足を止め、先生を見守る。

やがて、咳が落ち着いたのか、先生はまだ少し肩で息をしながら私をちらりと見ると唇を動かした。


「……何か用か」


少し掠れた声で尋ねられ、私は左手で抱えた勉強道具を軽く持ち上げる。


「わからないところがありまして……教えて貰おうかと……」


声が段々と尻窄んでいくのは、さっきは忘れていた迷いとか不安が蘇ってきたから。

視線まで足元に落ちてしまう態度の私を、先生は気に止めた様子もなく呼吸を整えてから「じゃあ、適当に座ってくれ」と声にする。

促され、私は6つある椅子のうち、1番手前にある椅子に座った。