「はぁ〜……」


放課後、数学準備室の前でため息を落とすのは何度目だろう。

時折廊下を通る教師や生徒から奇異な目で見られるのを意識しながら、私はかれこれ扉の前を10分近く行ったり来たりしていた。

迷惑にならないようにすると決めたのは自分。

だけど、椎名先生の友人である葛城さんの言葉に心動かされ、今まで通りにしている方がいいのではと思い直した。

単純に、自分が先生の側にいたいのもある。

けれど、葛城さんの言葉にはちゃんとした意味がある気がするのだ。

だから、今まで通りの第一歩として、勉強を教えてもらいに来たのだけど……

いざとなるとなかなか訪ねることができずに、こうして教科書と筆記用具を胸に抱えてウロウロしている状況だった。


ていうか、中に先生がいるのかもわかってないんだよね。

いなかったらここで悩むことは無駄になる気がして、私はひとつ大きく息を吸い込むと、勇気を出してノック……は出来ず、そっと扉を開けて、隙間から中の様子を伺った。


最初に見えたのは、正面の窓から差し込む陽の光。

眩しさに目を細め、慣れてきた目で次に見えたのは柔らかな木目の机。

そして、その机に寄りかかり立ちながら名刺のようなサイズのカードを手に持ち、視線を落としている椎名先生。

逆光で表情までは見えないけど、淡い光と陰のコントラストの中に立つ先生の姿になぜだか胸が締め付けられた、その、刹那──


「……っ、ごほっ! ごほっ!」


先生は背を丸めて咳き込んだ。