「──到着。付き合ってくれてありがと」
家の前に車を停めると、葛城さんはニコッと笑いながらお礼を口にした。
「いえ、こちらこそ送ってもらってありがとうございます」
私も助手席でお辞儀をし顔を上げると、葛城さんは少しだけ身を乗り出して。
「今度はちゃんとしたデートしようね」
突然そんなことを言うもんだから、私は思わず「ええ！？」とたじろいだ。
「ははっ、冗談。そんなことしたら要に怒られちゃうからなぁ」
からかわれただけだとわかり、私は胸をなでおろしながら車を降りる。
そして、ドアを閉めてもう一度ありがとうございましたと声にすれば、運転席のウィンドウが下がって。
「そうそう、きっと君ならあいつは迷惑になんて思わないから。どうか、君は君らしく最後まで要のそばにいてやって」
それじゃあね、と一方的に話すと、エンジンをふかして走り去ってしまった。
家の前で1人、残された言葉を心の中で反芻する。
本当に、迷惑になんて思わないかな？
私は私らしく、先生のそばにいてもいいの？
今までと変わりなく、接してもいい？
答えはもちろん返ってこない。
けれど、その日は布団の中にもぐりながらもずっと、そればかり考えていた。
初めて恋した人のことだけを。
