つつがなく講義を終えて、椎名先生が教卓の前で男子生徒に質問されているのを横目見ながら帰り支度をする。

今日は父も母も舞子のお見舞いで病院にいるはずだ。

電話して、まだ舞子と一緒にいるのら合流しようかと考えていたら。


「遥〜、お疲れ〜」


のんびりした声に呼ばれ顔を上げると、マンガ創作研究部に所属しているくるみが、開け放たれた扉の向こうから顔を出してこちらに向かい小さく手を振っていた。

私は笑みを浮かべ鞄を手にくるみに歩み寄る。


「部活終わったの?」

「んーん、まだ。校内の風景を描くから写真撮ってるんだ」


話しながら、去年の誕生日に買ってもらったという深みのある赤色のデジカメを私に軽く持ち上げて見せたくるみ。

私が「そうなんだ」と答えると、説明し終わったのか、私の背後に教科書を手にした椎名先生が立った。

ふわりと、先生の使っている爽やかな香水の匂いが鼻をくすぐり、トクンと胸が高鳴る。


「あ、椎名っち〜」


くるみが愛想よく小さく手を振れば、先生はクールフェイスなままで唇を動かす。


「坂本。部活か?」

「そうでーす」


くるみの返事に「そうか」と小さく頷くと、先生の視線が私に向いた。