ダメだな、私。

先生はいつも私に温かい言葉をくれるのに。

私は先生の気持ちを少しも軽くしてあげれない。

痛みを、一瞬でも忘れさせてあげられない。

私が先生みたいに大人だったら、傷ついた心を癒したり、慰めたりできたのかな。

普段、自分をそれほど子供だとは思ってないけど、こんな時は痛感する。

高校生である私と、社会人である椎名先生との年の差を。


役に立てない自分に落胆していると、先生が静かに立ち上がる気配がして、私はいつの間にか地面に落としていた視線を先生へと戻した。


「掃除はもういいから、着替えて帰っていいぞ」


言いながら、椎名先生は水が出っ放しだったホースを手にし、蛇口を閉める。

「でも」と、掃除を中途半端にしてしまうことに戸惑った私を、先生は振り返った。


「心配しなくても、立川先生には俺から伝えておく」


風邪、ひかないようにな。

そう言って、私の事を気遣ってくれた椎名先生は、痛みを引きずったような微笑みを残し、プール棟から去って行く。