「誘われてたんだ。一緒に泳ごうって、俺の手を笑顔でひいて。でも、俺は他の友達を優先した」
それは海に着く前からの約束だったらしい。
遊泳禁止のロープまで競争し、負けた方がお昼を奢る。
よくある賭けだ。
でも、その賭けの最中、七瀬さんは溺れてしまった。
「もし、あの時俺が断らなければ……七瀬は、生きていられたはずなんだよ」
あの時、彼女を選ばなかった事を、今でも後悔してる。
そう続けた椎名先生は、小さく息を吐いた。
いまだ太陽の陽に煌めく水面を見つめたまま、再び口を開く。
「夢に見るんだ。彼女が、海の中に消えていくのを。せめて夢の中だけでも助けられればいいのに、手を伸ばしてもそれは叶わず、何度も彼女は目の前で暗い海の中へと沈んでいくんだ」
先生が背負う痛みと過去の重さに、かける言葉が見つからない。
辺りに沈黙が落ちて。
柔らかく生温い風が吹く中、どうにか私の口から出た言葉は……
「先生……辛いこと聞いてごめんなさい。でも、話してくれてありがとう」
至極ありきたりなものだった。



