放課後の数学準備室はとても静かだ。

聞こえてくるのは、壁にかかった丸い時計が時を刻む音と、私がノートにペンを走らせる音。

それと、私の復習に付き合ってくれる椎名先生が時折コホッと咳き込む声だ。


「先生の風邪長いね」

「ああ、少し気管支が弱いだけだよ」


そう言って、広げていた数学の専門書に視線を戻す先生の心は……


もうこの世にはいない人に向いている。


そうでなければ、あんな寂しそうな顔はしないはずだ。

だから、例え私が生徒じゃなく、先生と対等の立場の人間だったとしても、先生が私を見てくれることはないんだろう。

なのに……


「ここ、間違ってるぞ」

「えっ! わ、ホントだ」


気持ちを自覚してから、好きという想いは停滞することはなく。


「そんな初歩的な間違えするなんて、調子でも悪いのか?」


どんどん


「あはは、寝不足がたたったかなー」


どんどん


「また風邪ひくぞ。しっかり休めよ」

「はーい」


膨らむばかりで。