「何? 喧嘩でもしたの?」


感じる痛みを誤魔化すように笑みを浮かべて余計な質問を口にした。

こう言えばきっと先生は、私には関係ないと話を終わらせ、雰囲気を変えると思ったから。

なのに、先生は視線を中庭に戻しながら……


「……してないよ。したくても、できない」


今度は、質問に答えてしまう。

本当は彼女とのことなんて聞きたくない。

けれど、喧嘩したくてもできないという理由が気になって。


「……どうして?」


私たち2人だけしかいない中庭の片隅。

静かな声で問いかけた私に、先生はそっと睫毛を伏せ……


「彼女は、もうこの世にはいないんだ」


悲しい事実を声にした。



先生には忘れられない人がいる。


その事実は、私の胸をぎゅっと切なく締め付けた。