翌日、学校では緊急集会が行われた。学校長の口から、久保が死んだことが語られた。
 自殺か他殺かは口にされなかったが、集会後すぐに、
「久保、自殺屋に殺されたって本当か?」と、クラスの皆が噂をはじめていた。
 公開自殺を偶然見ていた者もいたようだった。十一朗の顔を見るなり視線をそらす。
 最後まで見ていた――そう言っているように見えた。
 教室に行きにくくなった十一朗は、集会が終わった時点で部室へと向かった。今日一日は部室にこもろうと考えたのだ。とにかく一人でいたかった。
 ところが、部室に着くと、裕貴、ワックス、二人の姿があった。
「何だ。みんな考えることは一緒か……」
 十一朗は皆に視線を巡らすと、『プラマイ部長!』と書かれたネームプレートが置いてある席に座った。
 ミステリー研究部をつくろう――それを目標に真っ先に活動をはじめたのは、部長の十一朗だった。そこに幼馴染みの裕貴も加わり、同じクラスの久保も、面白そうだと言って入部した。もりりんとワックスは、久保が作ってきたクッキーに釣られた。
 部員が五人以上いなければ部室は用意されないと決まっている。久保のお陰で今の環境があるのだ。そういえば、ネームプレートに『プラマイ部長!』と書いたのも久保だった。
 裕貴の瞼が赤く腫れあがっていた。一晩中、泣き明かしたのだろう。
「……もりりんの姿が見えないけど」
 十一朗は食いしん坊キングの、もりりんがいないことに気づいた。少ない部員数なので、二人が減るだけでも部室が広く感じる。振り返ったワックスは、いつもとは違って鉛筆を持たずに十一朗を見た。
「もりりんなら一度ここにきてから、用事があるって言って帰ったよ。瞼が腫れあがってたぜ……あいつ、見掛けによらず優しいんだよな」
 ミス研全員が悲しみを共有していた。
 ワックスの手元にはスポーツ新聞が置いてある。広げられた面には『公開自殺を殺人事件として再捜査』と書いてあった。
 新聞を見なくても十一朗には事件の経過が全て分かっていた。捜査がどこまで進展したか、十一朗が訊く前に父が教えてくれたのだ。
 第一発見者となり、死亡したのが同じミス研部員、そして衝撃的な公開自殺――あまりの結末に、父は気を遣ってくれたのだろう。
 しかし、目撃証言はなし。十一朗と裕貴の姿は見たものの、犯人の姿は見なかった。
 そんな地域住民の答えが、逆に十一朗を痛みつけた。住宅街ともいえる久保の家は、犯人にとっては隠れ蓑にもなる。入る時だけ周囲を気にして犯行を実行し、目的を終了したら何気ないふりをして住宅街に紛れる。そうすれば、近所の住民としか思われない。
 目撃証言がなかった今、鑑識が持ち出した久保の私物に証拠が残されていないか、それだけが自殺屋につながる道筋であった。
 会話はそこで途絶えた。時計が時を刻む音だけが響く――しばらくの間があった。
 するとワックスが十一朗に何か言いかけた。しかし、困ったように頭を掻くと座り直す。皆が十一朗にかける言葉を探している。再び、長い沈黙だけが時を刻んでいった。
 すると、
「あのね、プラマイ……ワックスが、偶然あの公開自殺を見ていたって」
 裕貴が沈黙を破って、驚くことを口にした。それを聞いた十一朗は思わず立ち上がる。
「あれを見ていた? それって本当か」
 興奮して胸倉をつかんで聞いた十一朗の剣幕に、ワックスは息を呑むと首を縦に動かした。