俺たちが裏庭の方へと回り、裏口がある場所へと辿り着くと、あらかじめ校舎内に潜んでいた咲奇がドアを開けて待っていた。


『サキッち久しぶりぃい〜!!』


雪美は咲奇を見るやいなや駆け出し、飛びつくように抱きついた。


『ふふ…相変わらず、病人とは思えないくらい元気ね雪美』


咲奇は雪美にグイグイ押されながらも、俺へと涼しく微笑んだ。


『まったく…とっくに心臓治ってるんじゃねーのって感じだわ』


呆れた俺の言葉にも構わず、雪美は嬉しそうにはしゃいでいた。



『翔太、アレはちゃんと持ってきた?』


満天の星空を仰げる校舎の屋上に着いた時、咲奇が俺に訊ねてきた。


『もちろん。
これが無いとパーティーは始まらないからな』


俺は背中のリュックを下に降ろすと、中から500mlペットボトルのコーラを3本取り出した。


『あー!あの時と同じだ!』


雪美が指差して笑う。
そう…俺たち三人は、小学6年生の時の夏もこうやって、夜の校舎に忍び込みこの屋上の星空の下コーラで乾杯した。


『ぬるーい!』


『久しぶりに飲んだけど、やっぱり最低の味ね』


『コンビニで買った時はキンキンに冷えてたんだけどな』


さらに、俺はリュックを逆さまにして、チョコレートクッキーやビスケットをその場にぶちまけた。


まるで、天空に広がる天ノ川が、あの頃へと時間を流し戻してくれたかのような一時だった。


お菓子を口いっぱいに頬張る雪美に、温いコーラを顰めっ面で飲む咲奇。そんな二人を見ながら大笑いする俺…。


全てがあの夏の光景だった―――…。





『ちょっと外すわ』


1時間ほど騒ぎ倒した頃、咲奇がそう言って立ち上がった。


『トイレ?』


雪美の問いかけに笑みだけを返した咲奇は、屋上から出て行った。




二人だけになった空間に暫しの静寂が流れ込む。
『ほら、天ノ川に手が届きそうだよ』


俺の隣に座る雪美は、両手を夜空に翳しながら呟いた。


今にも、儚く消えてしまいそうな星の結晶のような姿に、俺は思わず雪美の肩を抱いた。


『ごめん雪美…ごめんな…。俺は何もしてやれなくて…』


口をついて出た謝罪の言葉に、雪美は黙って首を横に振った。


『私が入院してから翔太は毎日欠かさず、病室に会いに来てくれたじゃん。こんなこと言うと不謹慎だって思われちゃうだろうけど、翔太が優しくしてくれるから私は幸せだよ…』


『違う…!!違う…。
俺は自分が赦されたくて…お前を見捨てた後悔の念から解放されたくて…俺は…こんな…』


もうそれ以上言葉は出てこず、代わりに涙がとめどなく溢れた。


『一緒に居られるなら、何だっていい』


雪美は、涙に濡れた俺の頬に指で触れながら囁いた。


『罪滅ぼしでも、後悔でも憐れみでも…。
翔太が私の傍に居てくれるんなら、理由なんて何だっていい。
だって、勿体ないじゃん。そんな事を考えている時間があるなら、一緒に楽しんだ方が絶対にいいからさ』


そう言って笑う雪美は、本当に綺麗だった。