煌めく天ノ川が夜空を染めた七月。


病院の正門前に着いたのは、午前1時を少し過ぎたあたりだった。


『雪美(ユキミ)、いるか?
おい、雪美』


身をかがめ気味にしながら小声で呼ぶと、近くの物置小屋の扉がゆっくりと開いた。


『翔太ー。やっほ〜!
空めっちゃ綺麗だよねー!』


呑気なトーンの声で、パジャマ姿の雪美が姿を見せる。


『しっ…!声でけぇよ。何とか上手くバレねぇように来れたみたいだな。
つか、お前上着はどうした?』


七月とはいえ、夜はまだ肌寒いので、俺が昼間に病室を訪れてカーディガンを置いていたはずだ。


『ごめん…忘れてた』


雪美はそう言って舌をペロッとだして笑った。


『何だそりゃマジかよ…。
まったく…ホント、昔からヌケてんなお前』


仕方ないから、俺は自分の上着を渡すことにした。


『ありがとー。
わあ、翔太の匂いだ〜』

雪美は嬉しそうにブカブカの上着で、その華奢な体を包む。


『さあ、早く行くぞ。
目的地で咲奇(サキ)が待ってるからよ』


『え!?サキッちもいるの?
わぁい!やったぁー!!』

『しぃー!!だから声がでけぇって…』


俺は跳び跳ねて喜ぶ雪美の手を掴むと、足早に病院から離れた。






『この道、一緒に歩くの久しぶりだねー』


田園風景が広がる一本道を歩く中、雪美が空を見上げながらそう言った。

『ああ、そうだな。
中学以来か』


『だよねー。卒業式の帰りに翔太とサキッちと三人で歩いて以来だよ』


雪美の屈託のない笑顔が胸に痛い。


『疲れてないか?
何かあったらすぐ言えよ?』


俺は雪美と繋いでいる手の力を少しだけ強める。


『大丈夫だよ。いつも優しくしてくれてありがとう』


雪美の言葉に俺は顔を伏せた。


何故なら、俺は優しい人間なんかじゃないからだ。


俺は、雪美が辛い思いをしてる時に、それを知りながら背を向けて見えないフリをしていたクソ野郎だ。