『ミャーオ』


『ん…?』


聞きなれた猫の鳴き声にユウトは顔を上げた。
そこには家で飼っている猫、ミケ子の姿があった。


『え?え?』


腕に抱いたはずの蒼ノ咲奇は、何故か布団に姿を変えている。


ミケ子に耳たぶを舐められながら、ユウトは何とも言えない脱力感に襲われた。


『まさかの夢オチかよ!!』


ユウトは窓から差し込む朝日に向かって叫んだ。

『何であんな夢を見たんだろ…。
アニメのせいかな』


ユウトは寝る前に見たアニメを思い出す。


主人公は、アニメや漫画には必ずといってもいいほど登場する、前髪で片目を隠した少女。


考えてみると、その少女はどこか蒼ノ咲奇に雰囲気が似ているような気がした。


その少女が隠した黄金色の瞳には、呪われた力が秘められていた。


それは、その瞳で見つめた相手を自分の夢の中に閉じ込めることができる…というものだった。


今まで人々に恐れられ忌み嫌われて孤独だった少女は、その能力を利用して自分だけの楽園を築こうとする。


しかし、それを阻止しようとする刑事との戦いが始まり、憎悪と愛情が渦巻く息もつかせぬストーリーが展開されてゆく。

でも結局は、自分も誰かが見ている夢の中の住人だったと気がついてしまった主人公の少女は、絶望しながら涙を流す…ってのが、そのアニメのラストシーンだった。


『は〜、さっきの夢に帰りたい…。
蒼ノさんが居るあの教室に帰りたい…』


『ちょっとユウト〜!
ダメだよ学校遅刻するよー!』


ユウトは淡い期待を胸に再び瞼を閉じるが、ミケ子の声にそれを阻止された。


『おい、無闇やたらに"人間体"になるなって、親にバレたらどうすんだよ』


いつの間にか猫耳少女に姿を変えているミケ子に、ユウトが布団を被せた。


『だって、ユウトが浮気しようとしてるんだもん…』


布団を頭から被ったミケ子が拗ねたように頬をふくらませる。


『夢の話しだろ』


呆れたようにユウトが溜め息をつくと、突然ミケ子が飛びかかってきた。

『夢でもヤダ!ヤダヤダヤダ!!』


『わかったわかった、悪かったなミケ子。冗談だよ』


ユウトはミケ子を優しく抱きしめて、その唇に口づけた。