「キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン―…」



倉田ユウトは意識の遠くで鳴り響いているチャイムの音を聞いていた。
うっすら開いた瞼の隙間で動いた何かに瞬きを数回繰り返す。


『起きた?』


そんな声がして、机から頭を上げると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

ぼんやりとした視界の中でも、それが同じクラスの蒼ノ咲奇(アオノキサキ)だとすぐに分かった。


『あれ?蒼ノさん、何をしてるの?』


目の前に蒼ノがいる理由が分からず、ユウトは周りをキョロキョロと見渡した。


ひっそりと静まり返った薄暗い教室には、ユウトと蒼ノの二人しかおらず、窓から夕陽が寂しげに差し込んでいた。


『私、今日は教室の鍵をかける係なんだけど、倉田くんホームルームからずっと寝てたから起きるのを待ってたの』


蒼ノはそう言うと、手に持っていた鍵をチャリッと鳴らした。


『え!?マジで!?
うわっごめん!!
起こしてくれたら良かったのに!』


ユウトは勢いよく立ち上がると、急いで帰り支度を始めた。


『ふふ…、倉田くんってば、あまりにも気持ち良さそうに眠ってたから。思わず見とれちゃったの』

蒼ノの言葉に、ユウトはピタリと動きを止めた。

『え…?まさか見てたの…?』


『ええ、可愛い寝顔だったわ』


蒼ノは悪びれる様子もなく笑みを浮かべながら答える。


『ちょっ…マジか!うわっ恥ずかしっ!
趣味悪いよ蒼ノさん!』

ユウトは顔を赤らめて項垂れた。
だが、内心はかなり嬉しかった。
学校中の男子から一目おかれている、才色兼備の高嶺の花である蒼ノ咲奇に見とれられていたなんて、信じられなかった。


『寝不足気味なの?』


蒼ノはユウトの顔を覗きこんできた。
ユウトの鼻腔を、何とも言えない良い香りが擽る


『う、うん…深夜アニメを観ててさ…』


改めて間近で目にする蒼ノの造形物のようにきめ細かい純白の肌に、ユウトは唾をゴクリと飲んだ。


『アニメ?どんなストーリーなの…?』


蒼ノは薄紅色の唇を、ユウトの耳の傍まで近づけて囁いた。


『蒼ノさん…?』


蒼ノの舌がユウトの耳たぶをつたいだした。


『私…倉田くんを夢中にさせるものに興味がわいてきちゃった…』


ピチャピチャと唾液の鳴る音と共に、蒼ノの吐息のような声がユウトの脳を痺れさせてゆく。


今、憧れの女子が自分の耳を舐めている。
こんな状況は、アニメでくらいしかありえない。


『蒼ノさん好きだ!!俺もう我慢できない!!』


ユウトはそう叫ぶなり、蒼ノを抱きしめた。