蒼ノ咲奇はチャイムに笑う

「キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン―…」




『え?チャイム?何で?』


突然辺りに響いたチャイムの音に、俺と雪美は戸惑いながら立ち上がった。

『久しぶりに聞いた〜。懐かしいー』


雪美が呑気にそんな事を言っていると、咲奇が帰ってきた。


『おい、これまさか…お前が?』


『ええ、さっき放送室に行ってきたの。
どうせなら、悪戯もやっとかないとね』


俺が恐る恐る訊ねると、咲奇は悪びれる素振りも見せずに微笑んだ。


『何してるの?
さあ、人が来る前に逃げるわよ』


咲奇の掛け声に、俺と雪美は目を合わせると、腹を抱えて笑った―――…。






『もう、あれから一年経つのね』


蒼ノ咲奇はそう呟くと鮮やかな夜空を見上げた。

『また付き合ってもらって悪ぃな』


去年と同じ校舎の屋上で去年と同じ星空。

ただ一つ違うのは、雪美がこの場に居ないこと。

三人で騒いだあの夜から3ヶ月後に雪美はこの世を去ったのだ。




『頼みがあるんだ…。
また、チャイムを鳴らしてくれないか?』


俺の申し出に、咲奇は何も言わずに小さく頷いた後、静かに屋上を立ち去った。





『確かに…手が届きそうだな…』


雪美が居るであろう遥か遠くの天ノ川に向けて手を翳していると、だんだんと視界が滲んでくる。


空から降り注ぐ星の光が作り出す幻想的な輝きの中で、雪美が微笑んで手をのばしている。


『一緒に居られるなら…何だっていい…』


ふと通りすぎた、濡れた頬を撫でた柔らかい風に混じり、雪美の声が聞こえた。


『雪美…』


鉄柵を乗り越え、縁に立った俺は星空を仰いだ。



「キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン―…」




懐かしいチャイムの音色に包まれながら、俺はゆっくりと倒れるように雪美が待つ天ノ川へと飛び込んだ。




そうさ…
一緒に居られるなら、理由なんて何だっていい…。




【完】