「ねえ、どうして逃げたの? 」

「……別に逃げてないよ」

ぎゅっと腕に力が入る。手が大きくて、あたしの腕を簡単につかめてしまうため、時折力加減を忘れているとしか思えない程の力が加わって痛い。


あたしは、痛みを感じる人間だと言ってやりたくなる。


ただその場合は、相手の機嫌にもよる……



「それなら、どうして駅前からいなくなった?」

「そうかな。駅前に司がいたの気がつかなかったよ」




あきらかに不機嫌であるものの、どうにかごまかしてしまいたい。


たとえ二百メートル離れていたって、司の居場所はすぐわかる。何かフェロモンでも醸しているのか、女性の視線が一斉にそちらに向くのだ。

実際に司を見るよりも早く、その体から放たれるなにがしかの物質によって認識されるのだ。