何故だか、その足音に落ち着かない気分がつのっていく。それは追う者の気配を漂わせて何かを囲い込み、逃げ出せなくさせる狩猟犬のようだった。



ちらりと時計を確認する。


不審な輩が紛れ込むのも、ここが夜の気配を漂わせているからかもしれない。

そろりと席を立ち、徘徊するものの気配とは反対方向へと回り出口へ向かう。

数歩足を進めて、がっしりとした腕に背中から捕まれる。



「……どこ行く気? 」


薄闇のなかにも、足元のフットライトが僅かな光を投げかけていて、相手を判別できるだけの光源になっていた。

笑った顔になってはいても、その目は笑ってなどいなくて背筋が凍るような冷たい光をまとっていた。


「あ、うん……トイレとか? 」

「ふうん……邪魔になるから座ろ」



腕を捕まれたま座るので、つられるようにして自分まで隣の席に腰を下ろした。

トイレに行くと言っているのに、何故座ることになっているのか。座ってもなお離されることのない腕をどうしたらいいものか。