「・・・この顔じゃ、教室戻れないね。 次の授業もサボろっか。 北川くん」

 少しでも顔の赤みを取ろうと、吉野さんが自分と僕の顔の前で両手を上下に動かして仰いだ。

 「・・・そうだね。 ティッシュ足りなくなっちゃたから、トイレットペーパー拝借してくるよ」

 トイレに行こうと立ち上がると、

 「じゃあワタシ、自販機でジュース買ってくるよ。 いっぱい泣いたし、北川くんがまた脱水で倒れると困るし」

 吉野さんも腰を上げた。

 「傷口抉りますね、吉野さん」

 「イジってあげてるの。 腫れ物扱いされても気分悪いでしょうが」

 意地悪く『ニイ』と笑う吉野さんが、あまりに可愛くて、ムカついて。

 そんな吉野さんの鼻を摘んで捻ってやった。

 「痛った!!」

 鼻を押さえる吉野さんを尻目に、やり返される前に全力でトイレへと走る。

 背後で『北川くんの炭酸、死ぬほどシェイクしてやるからな!!』と怒っている風で笑っている吉野さんの声が聞こえた。