傷む彼女と、痛まない僕。


 吉野さんに赤ちゃん扱いされた恥ずかしさを隠すように、吉野さんから受け取ったティッシュで、わざとらしい音を立てながら鼻をかんでいると、

「・・・この話、本当に誰にも言った事がないんだ。 自分の親を、そんな親から産まれた自分の事も、本当に恥ずかしく思っていて。 普通に働く親の元で安穏と暮らすクラスメイトが妬ましくて。 ずっと言えなかった。 言いたくもなかった。 ・・・ワタシ、もらい泣きするタイプなんだよね」

 吉野さんが、僕からティッシュを奪い返して、目頭にそれを当てた。

 「・・・言いたくなかった。 でも、やっぱり本当は誰かに話したかったんだと思う。 自分1人で溜め込んでるの、結構しんどかった。 北川くんに聞いてもらえて良かった。 ちょっとスッキリした。 ありがとう」

 吉野さんが、僕にお礼を言いながら、涙を零した。

 そんな事をされたら、言われたら、折角落ち着きかけていた僕の涙腺が、また騒ぎ出してしまうじゃないか。