傷む彼女と、痛まない僕。


 「父は、自分の家でもない母の実家で、それはそれは大きな顔をしていたの。 仕事もせずに母方の祖父と祖母の年金を齧りまくって、その事を母が咎めれば、殴る蹴るで。 父に暴力を振われた母は、祖父母やワタシにヒステリックに当たり散らして。 自分が選んで結婚した相手の事なんだから、母自身がどうにかすべきなのに。 そのうち父は、ワタシの学資保険も喰いものにした」

 吉野さんが、時折奥歯を喰いしばりながら言葉を紡ぐ。

 「やりたい放題の父に、祖父も限界に達して、ある日『出てってくれ』って父に言ったの。 母にも『離婚しろ』って。 お金も仕事もない父が、そんな要求呑むハズもなくて。 父が、年老いた祖父母にも危害を加えようとしたの。 祖父母を守らなきゃって思った。 『オレたちが建てた家だから出たくない』って言う祖父母を『家は必ず取り返すから』って説得して、結婚して家庭を築いていた母の妹に頭下げて、祖父母を母の妹の家に住まわせてもらった。 ・・・その時ね、『ワタシも一緒にココに置いてくれ』って母が言ったの。 最低だなって思った。 娘のワタシじゃなくて、自分の逃げ場を確保しようとしたの」

 『さすがにいい大人の母まで面倒見れないって断られてたけどね』吉野さんが、しょっぱい顔をしながら鼻で笑った。