傷む彼女と、痛まない僕。



 「・・・北川くんは、この世に必要のない命なんかないと思う??」

 吉野さんは、いつかの体育見学時の様に、僕の質問には答えずに、全く関係ないと思われる問いかけをしてきた。

 「・・・うん」

 吉野さんが、遠回りしてでも話す気になるなら、待とうと思った。 それに僕もまだ、聞きたいくせに聞いて良いものかどうか、心が決まっていなかった。

 「じゃあ北川くんは、死刑制度反対派なんだ。 どんなに凶悪な犯罪者も殺人鬼も、更正すれば末永く幸せに暮らしても良いって考え方なんだよね?? 自分の大切な人や家族が被害に遭ったとしても、そう思うって事だよね??」

 「・・・え」

 「だってそういう事でしょ?? よくドラマとか映画で『この世にいらない命なんか1つもない!!』って台詞出てくるじゃん。 アレ、何を根拠に言ってるんだろうって、いつも思ってた。 自分が見た事ないだけでしょ??って。 北川くんの根拠は何??」

 「根拠・・・。 ただ、『命は大切なもの』って刷り込まれてたから」

 吉野さんへの返事に口篭る。 確かに、『人の命を奪った人間の命は大切か??』と聞かれたら、『はい』とは言い難い。 だけど、全ての命が漏れなく大事なものであって欲しいと思ったんだ。 そうじゃないと、病気持ちの僕の命が不必要なものに思えてしまうから。