傷む彼女と、痛まない僕。


 「吉野さん、これ。 タクシー代。 足りる??」

 こっちを見てくれない吉野さんに近くに3000円を置く。

 「・・・1枚多いよ」

 僕に目を合わせる事なく、吉野さんがそっと1000円を僕に戻した。

 「僕を運んでくれたお礼。 受け取ってよ。 重かったでしょ??」

 返って来た1000円を、また吉野さんへ戻す。

 「・・・別に。 ・・・ワタシ、トイレ行ってくる」

 吉野さんは、1000円を受け取らず、逃げる様に立ち上がった。

 「吉野、SHR始まるぞ」

 小山くんが呼び止めるも、吉野さんは座ろうとはしない。

 吉野さんが、教室の扉に向かって歩き出す。

 僕は、吉野さんの事を何も知らないまま、ずっとこんな風に避けられ続けるのだろうか。

 
 吉野さんの事を知りたい。

 欲求に勝てなかった。

 吉野さんの逃げ場をなくす言葉が口をつく。



「待って、吉野さん。 僕の口止めはしなくていいの??」