傷む彼女と、痛まない僕。



 「案外早かったね」

 僕の方に歩いて来た吉野さんの手を握り、再び手を繋ぎながら、今度は吉野さんの家に向かう。
 
 「こんな傷だらけの顔で謝る人間に怒り続ける程、ウチの店長は鬼じゃないよ」

 痛々しい顔で苦笑いを浮かべる吉野さん。

 ・・・確かに。 今の吉野さんに謝られたら、何でも許してしまいそうだ。

 「ごめんね、 もっと早く気付いて助けてあげられれば良かったのに・・・。 早く治るといいね。 今度何かあったら、すぐ僕の事呼んでね。 吉野さんがこんな目に遭うの、僕が耐えられない」

 「うん。 ありがとう」

 吉野さんはニッコリ微笑んで僕を見上げるけど、

 「・・・呼んでくれなさそー・・・。 変に気を遣うとこがあるからなー、吉野さん。 でも、約束だよ!!?」

 吉野さんの性格上、なんとなく不安になって念押し。

 「うん、約束。 でも、確かに呼ばないかも。 だけど、助けて欲しいので、北川くんの家に逃げ込ませてください。 全力で走って行くので。 助けてもらう分際でご足労頂けないよ、さすがに」

 やっぱり吉野さんは変に謙虚だった。

 「『ご足労』て・・・。 全然構わないのに。 でも、ホントにヤバイ時は絶対呼んでよ?? 絶対だよ?!! てか、ちょっとのヤバさでも呼んでね!!」

 吉野さんの手を強く握ると、

 「うん。 ありがとうね、北川くん」

 吉野さんが握り返してくれた。
 
 そんな吉野さんが急に立ち止まり、

 「ちょっと、いい??」

 しゃがみ込んで、ポケットに手を入れ何かを探っていた。

 「何??」

 僕も吉野さんと肩を並べてしゃがむ。

 吉野さんの足元にはアリが列を作っていて、吉野さんはそれを見つめながら、ポケットからさっきお店から持ってきただろうコーヒーシュガーを取り出した。

 袋の先端を剥き、それをアリの上に撒く吉野さん。