嫌なアイツ





諦める…
そう決めて長野に行ったのに…

饗庭さんからあの丘の話を聞き約束したのもあったけど…

翔に…

本当の翔に逢えるのならあの丘で…

3年後…
(もう2年しかないけど…)

記憶を戻した翔に逢いたい…

翔に【愛莉】って呼んで欲しい…


今、目の前に居る翔が私の本当に心から愛した愛しいと思った相手なのに…

手を延ばせば直ぐに捕まえられるのに…

でも翔であって翔じゃない…



自分が辛く成るのは解ってたはず…

承知した上で私はここに帰って来たはずなのに…


どんな結果に成ろうと…

どんな結末が待ってたとしても…

最後まで…



あの丘でのジンクスを信じてみよう…


そう決めて帰って来たはずなのに…



私は手にブーケを握りしめたまま…


作業の手を止め…

机の上に置かれた材料と道具を見詰めまま考えてた。



『そんなにその人の事を大切に思ってるんだね…』


翔の声は何故か?
私には哀しそうな…
辛そうな…
そんな声に聞こえた



私がそうだよ!と笑顔で答えると…



『こんなに想われてるのに…。その人、全く気が付いて無いんだろう?』



翔の言葉に素直に頷いた私…