「ここはブリュアイランド大使館」

 手を掴んだまま開いた口から聞こえるのは、先ほど聞いた深みのある低い声。

「ブ、ブリュ……?」

 聞いた事のない国の名前に首を傾げる。

「グレンザー=レン・オーディー。これが俺の本当の名だ」

 力強い青い目が、真っ直ぐに葉菜を見る。

「ぐ、グレ? オジン?」

 聞いたことの無いカタカナ文字に、葉菜が首を傾げる。

「違う。グレンザー=レン・オーディー。北半球の、欧州にある小さな国、ブリュアイランドの第一王子だ」

「お……? オジン?」

「王子!!」 

 目を白黒させている葉菜に、少々苛立ちながらレンは答える。
 おっ王子~!?

「な、なんでそんな人がこんなところにいるの!?」

「もちろん勉強のためだ。もともと我が国と日本は友好が盛んでな。語学、経済を学ぶために、はるばるやって来たのだ。身分を明かすことはできない為、身を隠してお前の通う高校へ通っていたというわけだ」

「勉強の為、うちの学校に……」

「うまくだませ続けると思ったのに、無駄な好奇心のお陰でお前にばれてしまった」

 突き刺すような視線が胸に痛い。後ろめたさが葉菜の中に広がる。

「う。ごめんなさい……。でも、なんであのメガネかけると目の色が変わるの?」

「ああ、特殊加工がしてある」

 枕元に置いてあったビン底メガネを取り出し、かけてみせる。すると青い瞳が嘘のように、日本人のような黒い瞳が眼鏡越しに現われた。
 尾行されたりして素性がばれてはまずいからと、時代遅れのビン底メガネをかけていたらしい。確かに勉強オタクなんかを尾行する女の子はないはずだ。学校でもそのメガネのおかげで、誰からも相手にされていない。そのメガネにだまされてその下にある真実に、誰も気付いていない。