「レン!」

 見慣れたレンの姿に安堵に涙を滲ませた。もう大丈夫だ。体から力の抜けた葉菜はその場にへなへなと座り込む。

「彼女に触れることはオレが許さない」

 優雅な足取りで近づいてくるレンは、いつものビン底メガネをしていなかった。怒りを滲ませた青い瞳が国立を射る。

「お前は誰だ? うちの生徒か?」

 まずい現場を見られてうろたえながらも、見覚えのない青い目をした生徒に詰問した。

「オレが誰だろうと構わない。お前のようなげせんなやからが知る必要もない」

 目にも止まらぬ早さでレンの拳が繰り出される。頬をえぐる鈍い音と同時に国立の体がのけ反り、床の上にひっくり返った。あお向けに倒れたままぴくりとも動かない。

「先生は……?」

「気を失ってるだけだ」

 冷めた一瞥を国立に向けたあと葉菜に向き直る。

「大丈夫か」

「う、うん……」

 王子様が人を殴る姿というものを目撃して、葉菜は涙をこぼしながらも驚いていた。

「オレ様が来てやったんだから当たり前か」

 当然だとばかりに威張る姿はいつものレンだ。

「強いんだね……びっくりした」

「多少は鍛えている。王子だからと周りに身を守ってもらうばかりでは国の者に示しがつかないだろう」

 多少?
 多少鍛えたからと簡単に男の気を失わせる威力があるのだろうか。
 一発の拳で。