後ろ首を撫でられたような感触に、寒気を覚えながら振り返る。

「……先生。何してるんですか」

 触られた場所が汚れてしまったような気分に陥り、汚れを払うように手をもっていってそこを抑えた。

「お前の態度が少し反抗的なのが気になる。だから更正するように私が体罰を与えよう」

 邪悪な笑みを浮かべる先生を避けるため、後ろに下がろうとしてなにかにぶつかる。見ると机に当たってしまったようだ。前には先生が立ちはだかり、後ろは机と窓。逃げ道がない―――。
 絶望的な状況にめまいを覚えた。
 先生はいやらしい気持ちで私に触れようとしている。今更気付いても遅いけど、レンのいっていたことは本当だったんだ。
 じりじりと身を寄せてくる国立の息遣いが、興奮のためか乱れていた。葉菜は窓に同化してしまうのではないかと思うほど窓に背中を押し付けた。掴みどころのない恐怖に体が震える。立ちすくんだ足はいまにも崩れてしまいそうだった。

「どんな罰を与えようか?」

 この状況を楽しんでいるのか、笑みを浮かべたまま躊躇うことなく彼女の豊かな胸に手を伸ばす。触れる瞬間を期待しながらゆっくりと。目的の場所に近づいてくる、ごつごつとした大きく太い指に、葉菜は恐れおののいていて声をあげることもできない。その指が胸に触れる数センチまで近づいたとき葉菜は強く目を閉じた。

 レン! 
 助けて―!!

 
「罰が与えられるのはお前の方だ」

 先生の手が胸に触れる寸前、教室の中の静寂を破って深く低い声が響き渡った。二人同時に声の主を振り向く。すらりと伸びた長身が陽の光りを背に、堂々とした立ち姿で入口に立っていた。