クーラーが効いた図書館は快適だった。
 足音を消すように敷かれたカーペット。時折聞こえてくるのは本のページをめくる音や、本を棚に出し入れする音だけ。いたって静かな空間だ。
 二つ並んだ机に、まるで学校で授業を受ける時のように横に並んで座る。
 ヒマそうに足をぶらぶらさせる葉菜の横で、まじめに参考書を見る委員長。
 葉菜は机の上に両手を投げ出しながら、委員長の横顔をじっと見た。

「………」

 普段の授業中も感じたことだが、尖った顎と鼻筋が高いその横顔は、外人さんみたいだ。メガネがなければそれなりにいい男に見えなくもない。肌もきれいだし。でも、手入れされていないボサボサの前髪が邪魔で、どんな表情をしているのかよくわからない。
 真剣な表情でノートに向かい、シャーペンを走らせる委員長の顔に手を伸ばして、その前髪をかきあげてみた。

「んなっ……!? な、なにするんですかっ」

 振り向いた委員長が、顔を真っ赤にしながら慌てて葉菜の手を振り解く。
 驚いてあげた声に、周りの人たちの迷惑そうな視線を浴びる。

「す、すみません」

 委員長は慌てて何度も何度も頭を下げた。

「委員長……」

 非難の視線を浴びるきっかけを作った当の本人の葉菜は唖然をしていた。
 一瞬だけど、髪をかきあげた瞬間に見た。広い額とキリッと眉尻の上がったりりしいおでこ。

 今見たのが夢や幻じゃなければ……ハンサムなんじゃない?

 皆の知らない委員長の秘密を暴けるかもしれないと思うと、期待と最大級の好奇心で胸がドキドキした。
 再びまじめに机に向かうその横顔に、今度は周りの迷惑にならないように小さく声をかける。

「委員長」

「なんです?」

「お願いがあるんだけど」

「……なんでしょう?」

「メガネはずしてみて」

「はっ……はい?」

 再び大きい声を上げてしまいそうになり、ずり落ちそうなメガネを人差し指で直しながらも、慌てた委員長は小声で聞き返してきた。

「委員長の素顔、見せて」

「だ、ダメです」

「えー? なんで?」

「メガネを外したら……なにも見えなくなるからです」

「けちー」