「三森さん……?」

 葉菜の声に気が付いて、もやしのようにひょろりとやたら身長ばかりデカイ、夏の似合わない細い男、ビン底メガネが振り向く。

「こんにちは」

 いかにも軟弱そうな声で嬉しそうに笑い、葉菜のそばまで歩いてきた。
 その手に抱えている参考書やら辞書やらを見て葉菜が声をかける。

「これから図書館でも行くの?」

「あ、はい」

 声をかけられたのが嬉しいのか、少し顔を赤くしながら頷いた。
 委員長とは、学級委員長の彼のあだ名だ。本当の名前は、大滝蓮。名前はカッコいいのに実際委員長は、がり勉オタクで、なによりその顔にかけたビン底メガネがかっこ悪い。見苦しいと感じるほどの前髪の長さも手伝って、見ていて暑苦しい。しかも同じクラスで、隣の席というのも手伝って、葉菜が一番話しやすい男なのも委員長だった。

「私もついて行こっかな」

「えっ? ぼ、僕と一緒でいい、いいいんですか!?」

 ヒマになっちゃった一日、ひとりでいるよりはましかと偶然出会った委員長に軽い気持ちで付き合う葉菜に対し、委員長は顔を真っ赤にして驚いている。

「なに勘違いしてるの。暇になっちゃったから涼みに行くだけだよ!」

 そんな委員長の肩を小突きながら、ふたりは図書館へ向かった。

 そう、ただの気まぐれ。
 もてあました時間を使う道が見つからなかったから。そんな軽い気持ちで言った言葉だったのに。

 まさかあんなことになってしまうなんて―――。