「き、キスって……それって勘弁してる内に入るの……?」

「あ? いいのか? 襲っても」

 レンの青い瞳がスッと細くなり、それを見た葉菜はレンが本気であることを感じて、大慌てで首を振る。
 や。
 でも。
 だけど。
 最悪の状況を逃れるためには、私からキスをしなくちゃいけないわけで……。
 しぶしぶといった感じでレンの下から抜け出した葉菜は、王子の顔を頼りげない表情で見上げる。

「あのー……本当にしなくちゃいけない?」

「何度も聞くな」

 見返してくる青い瞳はもう有無を言わせてくれなそうだった。

「………」

 困ったような表情で見上げる葉菜の前で、青い瞳が閉じられる。
 こんな状況なのに、白人らしい色白の綺麗な肌、鼻筋の通った端整な顔のレンにしばし見惚れる。
 そっと手を伸ばして、その頬に触れた。
 高鳴っていく胸の高鳴りは、初めて異性に口付けをするから? それともレンに……?
 手を添えている頬の反対側に恐る恐る顔を近づけ、頬に触れることに一瞬躊躇してからエイ! と勢いよくその頬にキスをした。
 レンから離れると、両手で自分の顔を覆う。

 ぎゃーほっぺにチュウしちゃったよ……!!

 目を閉じていたレンのまぶたが開かれる。

「なんだこれは」

 明らかに不満そうな顔。

「私にはこれでも精一杯だった……ん!?」

 不満げなレンに抗議をしようとした葉菜の言葉が止まる。レンの腕が、葉菜の後頭部に回り髪の間に差し入れらた。そのまま引きよせられて唇と唇が重なる。
 驚きに葉菜の目が見開かれる。
 初めてされたキスは思いのほか、やさしくて……。
 震える葉菜のまつげが、応えるように閉じられる―――。

 窓から入ってくる風が、ふたりをそっとやさしく包みこんだ。