「な……なにしてるの?」

 レンの予想外な行動に呆気にとられる。
 葉菜の足を布団の上から跨いだレンは、彼女の肩を両手で掴むと、そのまま力任せにベッドの上に押し倒した。

「俺が女を泣かせるのは、ベッドの上だけだ」

 青い瞳が不適に笑う。

「……!!」

 なんだかとんでもなく嫌な予感がする。
 葉菜の背中に冷たいものが流れた。

「な、なにするの?」

「お前、初めて……聞くまでもないか。大丈夫だ」

 わけが変わらず動きを止めている葉菜に馬乗りになったレンは、胸前を隠したまま固まったようにピクリとも動かない彼女の頬に、そっとキスを落とす。それから唇を葉菜の耳元へもっていくと、

「やさしくしてやる」

 甘くささやいた。
 今まで聞いたことのない優しい声に、ゾクリと鳥肌が立つ。
 だ、ダメ! このままじゃ奴の思うままになっちゃう……!
 冗談じゃない! こんなエロ王子に食われてたまるものか!

「腕、どけろ」

 胸前をしっかり隠している葉菜に、命令が下される。

「いやだ」

 レンの魅力に負けそうな自分を叱咤して、しっかりした声で返す。

「いいからどけろ」

「い・や・だ! これ以上なんかしたら大声上げてやるから!」

 胸を隠す葉菜の手を掴んだレンの動きが止まる。

「大声を上げる? できるのか? そんなことが? 俺の素性がばれることになるんだぞ?」

 お前にそれができるのか? 挑発するような表情を浮かべる。
 そうだ。
 いま目の前にいるのは、委員長ではなくレン。
 私が声を上げてその騒ぎに駆けつけた人たちが見るのは、青い目をした異国の王子。
 そんなことになったらレンは強制的に国へ帰らなくちゃいけなくなる。
 私に、そんなひどいこと出来るわけない……。

「………」

 助けなんて呼べないよ。

「分かったか」

 あきらめて大人しくなった葉菜に満足そうに頷く。

「しかし……」

 もみ合った挙句、まったく色気のないムードに、

「やめだ。ヤル気が失せた」

 どうやらレンのほうはしらけたらしい。

「今日はこれで勘弁してやるから、キスはしろ」

 ため息混じりにいう。