他になにをいえと?

 まさか床に額をくっつけて土下座して謝れとかいうんじゃないでしょうね!? 

「礼のひとつにキスもできないのか?」

「は?」

 一瞬、目が点になる。
 な、ななななんでお礼にキスしなくちゃいけないの!?
 いきなりキスといわれ、恥かしさに葉菜は顔を赤くする。

「感謝の気持ちがあるなら出来るはずだ」

「そっそんなの無理だよっ」

 レンを見ていた顔を逃げるように背ける。

「召使いの分際で、俺の言うことが聞けないのか?」

「や、だから! 召使いじゃ………ん?」

 抗議しようと飛び起きて、自分の姿に言葉が止まる。
 制服のブラウスのボタンが、何故か、全快だった。

「なぁーーーーー!!」 

 耳まで真っ赤にさせた葉菜が、慌てて胸の前を両手で隠す。

「なっなにっなにーっどういうことー!??」

「ぎゃーぎゃーうるさい」

 耳に指を突っ込みながら迷惑そうな顔をするレン。

「だって、だって!」

「昨日付けた刻印(しるし)が消えてないか確かめただけだ」

 ああ、そっか。確かめただけか。
 って、確かめただけだ?
 だけって………簡単にいうな!

「ひどいよ! いくら、あんたの秘密を知ったからって意地悪すぎるよ!! 意識のない間にこんなことするなんて。私だって純情な女の子なのに……!」

 目に悔し涙をためてレンを睨み付ける。

「泣いてるのか?」

 レンが椅子から立ち上がると、片手をベッドの上に乗せてかがみこむようにしながら葉菜を覗き込む。

「だったらなんだっていうの……!」

 寝ている間にこんなことするなんて最低!
 女の敵だ!!
 だいたい、召使いだのなんだのだって勝手にそっちが決めたことじゃない!
 上から覗き込むようにしているレンを見上げた葉菜は、目尻に涙を溜めながら必死に睨みつけた。ブラウスをかき抱く腕にギュッと力がこもる。

「分かった」

 深みのある低い声が納得したように短く答えると、ベッドをギシッときしませて、なぜか上にあがってきた。