校長の声だけが響いていた体育館に、葉菜の倒れる音が大きく響いた。

「葉菜!?」 

 崩れるように倒れ、意識のない葉菜は血の気がなく真っ青だった。慌ててあきが駆け寄る。

「先生!」

 異変に気付いた校長が話を中断し、助けを求めるあきの声が体育館の中に響く。

「わ、私が運びますから……」

 その声にあきが見上げると、いつの間にか目の前に委員長が遠慮がちに立っていた。

「大丈夫なの?」

 そんな細い腕で運べるの? という、あきの心配をよそに、委員長は頷く。ひざまずいて片手で背中を、もう片手は膝の下に差し入れ、意識のない葉菜をそっと抱きかかえた。
 駆け寄る何人かの先生の合い間を縫って、頼るには少々不安な足取りで、葉菜を抱いた委員長は体育館を後にする。


 葉菜は気が付くと、地味なグレーのドレスを着て、その上に真っ白なエプロンを着ていた。
 私、なんでこんな格好してるんだっけ?
 まるで大きなお屋敷に仕えるメイドみたい。
 首を傾げる葉菜のそばに突然現われる、体格のいい歳を召した神経質そうなおばちゃん。やはり葉菜と同じ様な格好をしている。
 この人誰だ? 首を傾げる葉菜のそばで眉間にしわを寄せたおばちゃんが、大声を上げ始める。

「ほら! ぼさっと突っ立ってないで、さっさと働きな! 時間は少しも無駄に出来ないんだよ! 王子様の部屋へ行って掃除をさっさとしてくるんだ‼」

「おうじ? 王子って誰?」

 かなきり声を上げ追いたてるおばちゃんに、首を傾げる。

「なにいってるんだいこの子は! レン王子さまに決まってるだろう!?」

「れ、レン王子…? なんで私がレンの部屋の掃除を?」

「頭おかしくなっちまったのかい!? あんたは、王子様の召使いとしてここで働いているだろう!」

 両手を腰に当てて、やれやれと大げさにため息をついている。
 
 私がレンの召使いで、ここで働いてる―!?
 いったいどういうことっ!?

「さぁ、納得したならさっさと自分の仕事に励むんだよ! ほら、さぁさぁ!」

 無理やり背中をぐいぐい押されるのを、必死に扉にしがみついて耐えた。

「あの、待って! 私、納得してない……!」