だけど、このまま教室の入り口でいつまでも突っ立っているわけにはいかなかった。 
 レンの様子を見ると、背筋を伸ばして机に向かっている。なにやら書いてるようだ。
 勉強してるのかな……?
 そうだ! 勉学のために日本に来たぐらいだし、学校では変な行動できないんじゃない!?
 うん! それに今はレンじゃなく、ビン底メガネの委員長だもん!
 気を取り直して、委員長の後ろを通り自分の席に向かう。机の上にカバンを置いて座った。
 眠気に襲われて、あくびが出た。
 始業式の前にちょっと眠ろう。
 カバンを枕代わりに机の上に寝そべる。

「………」

 なんとなく視線を感じて、その姿勢のままチラリととなりの委員長を見ると、向こうもこちらを見ていたのか目が合った。

「おはようございます。三森さん」

 委員長らしい弱々しい声で、人がよさそうな笑顔を向けてくる。
 ビン底メガネの向こうから送られてくる視線は、日本人のように黒い瞳。あの海のように青い瞳は特殊加工されたメガネによって隠されていた。

「お、おはよう、委員長……」

 今は安全な委員長だと分かっていながらもびくびくしつつ、挨拶を返す。
 じつは素顔がハリウッドスター級にカッコいいってことが、この顔を見ている限りでは信じられない。特殊メガネ一つで見事に化けている。

「夏休みは楽しかったですか?」

「えっ……いや、あ、そ、そうですね」

 委員長と話してるんだって分かっていても身構えてしまう自分に、これから先の学生生活はおびえて過ごさなくちゃならないのかと、葉菜は泣きたくなった。