再びハンドルを霸龍闘が握り、バイクは環状道路をひた走る。

「元気よく逃げるな、あのハマー。逃げ切れる訳ないのに。リィ」

「うん…」

このやり取りだけで、リィは霸龍闘の意図を察した。

スーツの内側からヴィオラを抜く。

この拳銃に弾丸は込められていない。

代わりに込められているのは精霊。

『魔銃』ヴィオラは、リィの故郷で発達している精霊術を利用した拳銃なのだ。

そのヴィオラで。

「ノーム、ドリアード」

《任せろ!》

《は、はいぃっ》

緑色の帽子を被った少年の姿と、蔦を体に巻きつけた少女の姿。

二つの精霊が放たれる!

まず地の精霊ノームがハマーの前方に先回りし、アスファルトに一撃!

その一撃でアスファルトが大きく波打ち、亀裂が走る!

車体が跳ね上がり、横転するハマー!

このまま路上で激突すれば爆発炎上、環状道路は数時間に亘って通行止めになるし、怪我人も多数出るだろう。

だから森の精霊ドリアードが即座に木の根や蔦でネットを張り、横転したハマーを受け止めつつ、雁字搦めにして捕縛する。

テロリストを完全に封じ込めつつ、周囲の被害も最小限に留めた。

エージェント・リィの初仕事はパーフェクトだった。