だ、だけど、でも。
 その中へ私も入ったらふたりは密着しちゃうんだよ!?
 女同士ならともかく、男と女なんだよ!?
 無理。無理だよ。

 中へ入る勇気もなく、首を振る沙羅に痺れを切らした嵐は、再びその腕を掴むと強引に引き寄せた。勢いよくその胸にぶつかりバランスを崩しそうな沙羅の背中をもう片方の腕で支える。
 沙羅を引き寄せたほうの手を伸ばしてロッカーのドアを閉めるのと、教室のドアが開く音がするのとほぼ同時だった。

「なんだ? 電気が付けっぱなしじゃないか」

 独り言で文句をいうその声は聞いたことのある先生の声だった。

 で、でもそんなことより……!!
 私がいま、置かれている状況……!!
 男の子の腕の中!
 しかもちょっと気になっている男の子!

 華奢に見えるのに、広いしっかりした胸が私の頬に当たっていた。白い洗い立ての石鹸の香りのするシャツ。その中に、少しだけ香る、嵐くんの匂い……。

 彼の腕の中で、きをつけの姿勢をしたまま動けない。
 胸がドキドキしているのは、私の? それとも嵐くんの?
 先生、早くどこかへ行っちゃって!
 私の寿命を縮めないでください……!  

 身動き一つ出来ず、切実に願う沙羅の祈りは届くことなく、先生の足音がこちらへと近づいてくるようだった。
 な、なんで……!?

「やべっ」

 頭の上で嵐くんが小さく舌打ちするのが聞こえた。
 沙羅は頭を少し動かして、あることに気付く。
 暗いロッカーの中に、教室の明かりが細く入りこんでいた。
 ドア、ちゃんと閉まってなかったんだ!
 沙羅の背筋に冷や汗が噴出す。
 これって凄く、とっても……ううん、かなり、まずい状況だと思う。
 だって教室の中でふたりでいるのがばれるより、こんな個室の中で抱き合うようにしてるところをばれるほうが、もっとずーーーーっと、まずいでしょ!
 そんなことになったら、何もしてないのに言い訳しても信じてもらえない。
 最悪、停学処分……。
 そして、学校中に広まるウワサ。
 クラス中の女の子を敵に回すことになっちゃうよ!
 どうしよう!  
 そうしている間にも徐々に近づいてくる先生の足音。
 ロッカーの中を緊迫した空気が包む。緊張に体を硬くする沙羅。その背中に回っている嵐の腕にも自然と力がこもる。
 先生の足音が、ふたりの入る掃除ロッカーの前で止まる。
 その手が、ドアの取っ手にかかった。

 もう、だめ……!
 痛いくらいに抱きしめられた。
 沙羅も嵐も、痛いくらいに強く目を閉じる。



 そして。