静かに耳を澄ませていると、それは一つ一つの教室を見回りながらこちらへ近づいてくるようだった。

「見回りの先生か」

 まずいな。といって嵐くんは親指を噛む。

「どうするの……?」

 沙羅が不安げに見つめる。

「うーん」

 嵐くんは何かを探すように辺りを見回し、教室の隅の掃除用具の入っているロッカーに目を移した。

 ?
 掃除ロッカーが、なに?

「電気を消してるヒマなんかない。とにかく隠れるぞ!」

 なにか、覚悟を決めたように真っ直ぐな瞳で沙羅を見返してくる。

「えっ? ど、どこに……?」

 隠れる場所なんてどこにもないじゃない。沙羅は戸惑う。

「見つかったらやばいのは分かるよな?」

 その問いに頷く。

「いいか。これは緊急事態だ。別にやましいことなんて考えてないから」

 いいながら、だんだんと顔を赤くしていく嵐くん。
 やましいこと?
 ますます訳が分からない。
 頭の上に? マークを出している沙羅に近づくと、その手を掴んだ。

「掃除ロッカーに入るぞ」

「え? ふ、ふたりで……!?」

「ああ」

「ほ、本気!? ふたりであんなところに入るの?」

「ああ」

 今ではすでに顔を真っ赤にした嵐が照れで俯きながら、強引に腕を引っ張って掃除ロッカーまで誘導する。
 
「で、でもふたりでなんて、あ、あれね、あのロッカーね、横幅はすんごく狭いと思うのよ。で、でね、奥行きもそんなに広く……」

「ごちゃごちゃ言ってる間に来ちゃうだろ!!」

 小声で怒鳴りながら音を立てないよう静かにロッカーを開け、自ら先に中へ入る。

「早くお前も入れ! 時間がないんだぞっ」

 細身の長身をすっぽり中へ入れた嵐くんが呼ぶ。