「あ、あの……大丈夫?」

 状況がよく分からない中で、心配になり声をかけた。

「ったく、大丈夫なわけねぇじゃんか」

 痛みを堪えているのか僅かに震えた声が返ってきた。その声音から苛立ちも伝わってくる。

「だいたいなんでこんな真っ暗な中に女がいるんだよ。あーもう、電気つけるからな」

 返事も待たずに、教室の中が白く輝いた。

「眩しい……」

 闇に慣れていた目が、その眩しさに耐え切れず細められる。

「あ、お前……南井沙羅だな!?」

 まだ光になれない視線を泳がせながら、その声の主を探す。

「勝浦、くん…?」

 学生ズボンに白いシャツ姿の、男の子。それは同じクラスの勝浦嵐くんだった。
 話をしたことは無いけれど、色素が薄い茶色のサラサラの髪、明るい性格に、整った顔立ち。クラスの女子の人気者。
 私も例外ではなく、嵐くんのことは気になる存在だった。

「なんで優等生がこんな夜遅くにこんなとこにいるんだよ?」

 自分の席に移動して、机の中を何か探すようにごそごそ漁りながら疑問を投げかけてくる。
 仕方なく事情を話すと、

「マジ? 超まぬけじゃん」

 そういって眩しいぐらいの笑顔で笑った。
 その笑顔にドキドキしつつ、沙羅も負けずに言い返す。

「もうっそっちこそ、こんな時間に学校に何のようなのよっ?」

「あぁ? 俺は忘れもん。、今日宿題出されただろ? 数学。教科書忘れちまったんだよ」

 机の中を漁って目的のものを手にしたのか、嬉しそうに顔が輝く。

「なんだ。勝浦くんだって超ドジじゃない」

「へっ俺の場合はコレが普通なの!」

「ぷっ……威張っていうことじゃないよー?」

 自信満々で冗談っぽくいうその姿に思わず笑顔がこぼれる。
 そんな折、静かな廊下から足音が響いてきた。

「………」

「………」

 一瞬にしてふたりを緊張が包み、顔を見合す。