「あっつー……」

和が部活のランニングを終えて戻ってきた


「はい、お疲れ様」


わたしは和にドリンクとタオルを渡した


梅雨が少し前に開けた、7月中旬。つい最近までのじめじめした日が嘘のように、太陽は容赦なく照りつけてくる

和はありがとうと言ってすごいいきおいでドリンクを飲み始め……むせた



「ちょっとー、大丈夫?」


わたしは笑いながら和の背中をたたいた。背中のたくましい筋肉が手のひらに伝わってくる。わたしはなんだか恥ずかしくなって、すぐに手をひいた


和とは、連絡先を交換するぐらいに仲よくなった。というのも、あのボール磨きの日以来、真希がやたらと和にマネージャーの仕事を押し付けては圭介といちゃいちゃしたがるから、当然話す機会が増えたわけだ



和と真希は幼なじみらしい。それを聞いたとき少し妬けたけど、二人とも互いに兄弟みたいで恋愛対象とは思ってないみたい。…安心する自分がいるのは確かだった


トン。おでこに軽い衝撃がきた。びっくりして顔をあげる。和の指が見えた


「ぼーっとしてる」


和が笑った


……それは反則だって…


なにもかも、ドキドキする。…もうわたしは和が好きになってるって気づいた




でも……認めても、一歩が踏み出せない


あの日以来、わたしは和の家族の話には触れてないし、和もあの折れたラケットについて聞いてこない


わたしたちの距離は近くても…わたしたちの間には、壁があるみたい…


近くて遠い……


身体は近くても、心が遠いよ…和、どうしたらいいの?



あなたを知ること、それはわたしを教えること


知ることも知られることも、まだまだわたしには怖い……