「送ってくよ、暗いし」
和とわたしは自転車を引きながら海沿いの道に出た。学校から海までは直線の道路を下るだけで、すぐに海沿いの道路にでる
「あ、ありがと……でも、家の方向は?」
学校から海沿いの道路にぶつかるところから左側は駅の方で、わりと住宅地になっていて、大きめのスーパーなんかもある。わたしはそちらの方向に家がある
「向こうだよ、同じだから大丈夫」
和は左側を指差していった
暗い海沿いを、二人で歩く。住宅地のあかりは見えるけど、車は全然通らなかった
さっきまでのドキドキが嘘みたいに、波の音しか聞こえない。和もなにも言わないし、私もなにも言わない
「海っていいよな。」
しばらくして、和が口を開いた。隣を見上げるとどこか、遠い目をした和がいる
「……うん。わたしの前の街には海なんか無かったから…」
都会だった。学校の人数も、人の数ももっともっといた。マンションが立ち並んで、夜でも明るかった……そして、息ぐるしかった
「広い気持ちに…海はしてくれる」
わたしは言った。和が黙ってうなずく
それだけで十分だった。わかってくれる人がいる…………なのに…波の音が悲しい
10分ほどで住宅地さしかかった。その一番手前の小さなアパートを指差して、和がいった
「俺の家、一応ここなんだ」
「え!わたしの家までまだ10分以上歩くよ?おうちの人心配しない?」
わたしの家はこの住宅地の一番向こうだ。帰りはチャリがあるとはいえ、和が家に帰るのに20分はかかってしまう
「…俺に…帰りを心配してくれる人はいない」
和がつぶやくように言った
びっくりして見上げると、和が笑った
「一人暮らしって意味だよ。俺一人で暮らしてんだ、変な意味じゃないからな」
いつもの笑顔。でもわたしには聞こえる
その笑顔の奥に……悲しい波の音が聞こえる
普段は何も感じさせないのに…今だけは、和の悲しみを感じる
和……あなたは、まだ16歳のその背中に何を背負っているの?