数分して、残ってた男子もみんな帰ってしまった…



真希〜!助っ人いないんですけど……



わたしは、少しの安心と少しの焦りを抱きながら、雑巾とボールを取りに向かった


重いボールが入った金属のカゴを、よいしょって引っ張った。


するとらいきなり後ろから誰かの手が伸びてカゴをつかんだ


「⁈」

後ろを振り返るとそこには…


「え、西島くん⁉︎」



「ああ…ボール磨き、やるんだろ?真希に頼まれた」



……心臓がバクバクしてる。まさか、真希が西島くんに助っ人頼んでたなんて…



重いはずのカゴがいっきに軽くなる。すぐ横に、西島くんの筋肉がついたたくましい腕があった



「相川、カゴもってっとくから…雑巾持ってきてよ」


「あ、わかった」


わたしは逃げるようにして雑巾をとりにいった



…〜っ!やばい、どうしよう


バクバクしてる胸を手で押さえる



これは、嬉しさ?わたし、なんで嬉しいの……
と、とにかく、雑巾!


わたしは雑巾をひっつかむと体育館の端の西島くんの方に向かった。



「はい、西島くん…ごめんね、付き合わせちゃって」


雑巾を渡す。指先が少し触れた。それだけでドキドキする


「あはは、いや…真希がサボったのが悪いから、相川は悪くないよ。」


あ、笑った……


本当に、笑顔がかわいくてステキ


バスケットボールを取り出して隣に座る。やばい、なに話したらいいんだろう


「あ、そうだ相川。前から言おうとしてたんだけど、俺のこと和でいいよ。西島くんじゃ堅苦しい」


西島くんが1個目ボールを磨きながらそう言ってきた


……やまと。



なんか、嬉しい



「うん、わかった」

「あ、あと俺も相川のこと凛て呼ぶよ。…いいだろ?」





呼ばれただけで、嬉しい


「うん…」


なんか、もうどうしよう。真希、ありがとう。圭介くんといちゃついてね



意外に、わたしたちの会話ははずんだ。ゆっくり話す和の話を聞いていると、それだけで幸せに感じる。たまに静かになったけど、全然居心地が悪くない…


不思議……



「わたしは一人っ子なんだけどさ、和は兄弟いるの?」


「……」

もう残り少ないボールを磨きながら何気なく聞いたとき、和が返事をつまらせた



……え?



何かを感じたとき、和は何もなかったように
妹がいるよって言った



静寂が流れる




今までとは違って、居心地が悪い



でも、ちょうどいいことに、わたしたちはすでに最後のボールにとりかかっていた。




「さ、帰るか。日は長くなったけど、さすがにもう薄暗いな」


「うん…」


ボールをしまって学校を一緒に出たとき、時刻は7時過ぎだった。夏らしく少しじめっとした空気。気持ちまで、沈んでくるような…薄暗い空には、星ひとつ見えない




和は家族に問題があるのかな……聞きたいけど、さすがに聞けなかった